日本に暮らす外国人の中長期在留者の皆様にとって、日々の生活の中で「在留カード」と「マイナンバーカード」の2枚を管理することは、想像以上に手間のかかることだと思います。特にビザ(在留資格)の更新時期になると、入管(出入国在留管理局)と市役所の両方に足を運ばなければならない煩雑さに、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
そんな中、政府が進めている大きな改革が「マイナンバーカードと在留カードの一体化」です。これは単にカードの枚数が減るという物理的な変化にとどまらず、皆様の行政手続きの流れや、日本での身分証明のあり方を根本から変える可能性を秘めています。
2026年(令和8年)度中の運用開始が見込まれているこの新制度について、行政書士の視点から、その仕組みの全貌、具体的なメリット、見落としがちなリスク、そしてスムーズな移行のための対策を徹底的に解説します。
「特定在留カード」とは何か? 一体化制度の全貌と仕組み
まず、この一体化によって生まれる新しいカードの正体について詳しく見ていきましょう。法的には「特定在留カード」と呼ばれることになるこのカードは、従来の在留カードとマイナンバーカードの機能を物理的に1枚のICカードに統合したものです。
現状、皆様のお手元には、入管が発行する「在留カード」と、お住まいの市区町村(国)が発行する「マイナンバーカード」の2枚があるかと思います。在留カードは日本に滞在する法的地位(ビザの種類や期間)を証明する最も重要なIDであり、常時携帯が義務付けられています。一方、マイナンバーカードは税金や社会保障の手続き、コンビニでの住民票取得、オンラインでの本人確認などに使われるカードです。これらは発行元が「法務省(入管)」と「総務省・地方自治体」と異なるため、これまで別々に管理されてきました。
今回の一体化では、マイナンバーカードの様式をベースにしつつ、その表面に在留資格や在留期間といった、本来在留カードに記載されるべき情報が追記される形になると想定されています。また、内蔵されるICチップには、マイナンバーカードとしての電子証明書機能(公的個人認証など)に加え、在留カードとしての情報も記録されます。これにより、1枚のカードで「マイナンバー(個人番号)の証明」と「適法な在留資格の証明」の両方が可能になります。
重要なポイントは、この一体化が「義務」ではなく「希望制」であるという点です。つまり、制度が始まったからといって、すぐに全員が強制的にカードを切り替えなければならないわけではありません。「今のまま2枚持ち続けたい」という方はそれでも構いませんし、「財布をスッキリさせたい」「手続きを楽にしたい」という方は一体化を選ぶことができます。しかし、実務的なメリットを考えると、将来的には多くの方がこの「特定在留カード」へ移行していく流れになることが予想されます。
また、この制度変更は単なるカードの統合だけでなく、入管と自治体のシステム連携の強化を意味しています。これまで縦割りだった情報管理がスムーズになることで、行政手続きの効率化が図られる一方で、外国人住民の管理が一層厳格化されるという側面も持っています。これから日本で長く暮らしていく皆様にとっては、この「管理の仕組み」が変わることを正しく理解しておくことが、ご自身の在留資格を守る上でも非常に重要になります。
最大のメリットは「負のループ」からの脱却〜手続きの簡素化
この一体化によって在留外国人の方が享受できる最大のメリットは、何と言っても「更新手続きの手間」が劇的に減る可能性があることです。これまでの手続きにおける「最大の不満点」を振り返りながら、どう改善されるのかを解説します。
現在、中長期在留者の方が在留期間更新許可(ビザの更新)を受ける際の流れは非常に複雑です。まず、入管で許可を受け、新しい在留カードを受け取ります。しかし、手続きはそこで終わりません。その新しい在留カードを持って、今度はお住まいの市区町村役場の窓口へ行き、マイナンバーカードの有効期限延長手続きを行わなければなりません。
ここには大きな「落とし穴」がありました。マイナンバーカードの有効期限は、原則として「在留期間の満了日」に合わせて設定されています。そのため、もし入管での審査が長引いたり、うっかり役所に行くのを忘れたりして、在留期限(=マイナンバーカードの期限)を1日でも過ぎてしまうと、その瞬間にマイナンバーカードは失効してしまいます。一度失効したマイナンバーカードを再発行するには、写真を用意して再度申請し、発行手数料(通常1000円程度)を支払い、さらに1ヶ月程度待たなければならないという、非常に大きな負担が発生していました。
一体化された「特定在留カード」になれば、この「役所へのハシゴ」や「うっかり失効」のリスクが解消されることが期待されています。
具体的な運用フローの詳細は現在も調整が進められていますが、基本的には入管で在留期間の更新許可を受けた際に、その場で新しい一体化カードが発行されるか、あるいは入管の手続きと連動してカード内の在留期間情報が書き換えられる仕組みになります。これにより、入管手続きが完了すれば、自動的に(あるいはワンストップで)マイナンバーカードとしての機能も更新されることになります。「入管に行った後に、疲れた体で市役所に行ってまた待たされる」という、あの徒労感から解放されることは、在留外国人の方にとって計り知れないメリットと言えるでしょう。
また、日常生活における利便性も向上します。銀行口座の開設、携帯電話の契約、不動産の賃貸契約、クレジットカードの申し込みなど、日本での生活立ち上げ時には「本人確認書類」の提示を求められる場面が多々あります。これまでは「在留カードを出してください」「マイナンバーカードはありますか?」と別々に確認されたり、どちらか一方では不十分だったりするケースがありました。一体化カードであれば、公的な最強の身分証として1枚提示するだけで済みます。
さらに、マイナンバーカード機能を使ったコンビニでの証明書取得(住民票や印鑑証明書など)や、e-Tax(電子申告)の利用、健康保険証としての利用(マイナ保険証)も、在留カードを携帯する感覚で自然に行えるようになります。常に持ち歩く義務がある在留カードにこれら全ての機能が集約されることで、「いざという時にマイナンバーカードを家に忘れた」という事態も防げるのです。
見落とし厳禁! 一体化に潜むリスクと法的注意点
利便性が高まる一方で、カードを一体化することには特有のリスクや注意点も存在します。行政書士として、特に皆様に警告しておきたい「落とし穴」について深掘りします。
まず最も懸念されるのが「紛失時のリスク」の増大です。これまでは、もし在留カードを紛失しても、家にマイナンバーカードがあれば身分証明ができましたし、逆もまた然りでした。しかし、これらが1枚に統合されるということは、それを紛失した瞬間に「在留資格を証明するもの」と「公的個人認証ができるもの」の両方を同時に失うことを意味します。
特に在留カードは常時携帯義務があるため、持ち歩く頻度が高く、その分だけ紛失のリスクにさらされます。万が一紛失した場合、再発行の手続きが必要になりますが、特定在留カードの再発行が「入管」で行われるのか「市役所」で行われるのか、あるいはその両方を経由する必要があるのか、その手続きの煩雑さは従来の比ではない可能性があります。再発行までの期間、身分を証明するものが手元にない状態は、外国人住民にとって非常に不安定で不安な状況です。一体化を選択する場合は、今まで以上にカードの管理に細心の注意を払う必要があります。
次に、「在留資格の変動」と「カード機能」の連動性についてです。一体化カードは、在留資格の有無とカードの有効性が完全にリンクします。例えば、何らかの理由で在留資格が取り消されたり、更新が不許可になって出国準備期間(特定活動)になったりした場合、そのカードの「マイナンバーカードとしての機能」も同時に制限される可能性があります。
また、永住者の方にとっても注意が必要です。現在、永住者の在留カードの有効期間は7年ですが、マイナンバーカードの有効期間は(外国人住民の場合も)発行から10回目の誕生日までとされているケースがあります(※在留資格等により異なる)。一体化した場合、これらの異なる更新サイクルがどのように調整されるのか注意が必要です。更新を忘れると、単に身分証が使えなくなるだけでなく、不法残留を疑われたり、銀行口座が凍結されたりと、生活基盤に直結するトラブルに発展しかねません。「1枚になって便利だから」と安心しきってしまい、有効期限のチェックがおろそかになることが、最大のリスクとも言えます。
さらに、プライバシーの問題も無視できません。入管職員がカードを確認する際、本来は見せる必要のないマイナンバー(個人番号)や、マイナンバーカード領域の情報までアクセスされるのではないか、という懸念を持つ方もいるでしょう。制度設計上はアクセス権限が厳格に分けられるはずですが、現場運用でカードを渡した際に裏面(マイナンバー記載面)を見られるリスクは残ります。在留管理という「監視」の側面と、行政サービスという「利便」の側面が1枚のカードに同居することの意味を、慎重に考える必要があります。
行政書士が提言する「スムーズな切り替え」への準備と対策
最後に、2026年度の制度開始を見据えて、今から皆様が準備すべきこと、そして実際に切り替えを検討する際の判断基準についてアドバイスします。
まず、現在お持ちの「在留カード」と「マイナンバーカード」の有効期限を今すぐ確認してください。もし、制度開始予定時期(2026年以降)の直前にどちらかの期限が切れる場合は、一度現行の制度で更新を行っておくのが無難です。制度開始直後は窓口の混乱やシステムの不具合が予想されるため、安定稼働するまでは様子を見るというのも賢い選択肢の一つです。
次に、「誰が一体化すべきか」という判断基準です。
私は、「在留期間が1年や3年で、頻繁に更新がある方」には、一体化を強くお勧めします。前述した通り、更新のたびに市役所へ行く手間が省けるメリットが非常に大きいからです。一方で、「永住者の方」や「高度専門職2号の方」など、在留期間が無期限(またはカード更新が7年に1度)の方は、急いで一体化する必要性は低いかもしれません。むしろ、紛失リスクの分散という観点から、あえて2枚持ちを続けるという選択も合理的です。ご自身の在留資格の種類と、今後の日本でのライフプランに合わせて選択することが大切です。
また、これから新規で入国する家族や知人を呼び寄せる予定がある方は、入国後の手続きが変わる可能性があることを伝えてあげてください。これまでは「空港で在留カードをもらい、住居地が決まったら役所でマイナンバーカードを申請する」という流れでしたが、今後は入国時や初期手続きの段階で一体化カードの申請案内が行われる可能性があります。最初の段階でつまずかないよう、最新の情報をキャッチアップしておくことが重要です。
最後に、手続きに不安がある場合は、無理をせず専門家である行政書士に相談してください。特に、「経営・管理」ビザの方や、転職を伴う更新を控えている方は、カードの手続きだけでなく、在留資格そのものの審査が重要になります。一体化の手続きと合わせて、在留資格の維持・管理についてのアドバイスを受けることで、より安心して日本での生活を送ることができます。
マイナンバーカードと在留カードの一体化は、デジタル社会における新しい在留管理の形です。便利になる一方で、自己管理の責任も増します。この変化を恐れることなく、正しい知識を持って活用し、日本での生活をより豊かで快適なものにしていきましょう。私たち行政書士も、そのためのサポートを全力で行っていきます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「こんなことで相談していいの?」
—— 大丈夫です! あなたの不安に丁寧に向き合います
フジ行政書士事務所では、日本で暮らす外国人の方が安心して生活できるよう、ビザのことはもちろん、手続き・仕事・暮らしの中で感じる不安や悩みにも寄り添っています。
「誰に相談したらいいかわからない」そんなときこそ、フジ行政書士事務所にご相談ください。
あなたにとっていちばん良い形を、一緒に考えていきます。
※LINEをご利用でない方は、▶ お問い合わせフォームはこちら からもご相談いただけます。
