EB-5ビザとは何か
EB-5投資家ビザは、アメリカ合衆国に一定額を投資し、10人以上のフルタイム雇用を生み出すことで、投資家本人とその家族に永住権(グリーンカード)が与えられる制度です。1990年の移民法改正(Immigration Act of 1990)によって創設されました。当時、アメリカ政府は国内経済の活性化と雇用創出を目的としており、外国資本を呼び込む手段として投資移民プログラムを導入したのです。
この制度の特徴は、他の就労ビザと異なり、学歴や英語力を求められない点にあります。必要なのは十分な資金と雇用創出の証明であり、資産家にとっては比較的明確なルートでアメリカ永住権を目指せる制度といえます。さらに、本人だけでなく配偶者や21歳未満の未婚の子どもも同時に永住権を得られるため、教育や生活基盤を整える目的で利用する家庭が多いのも特徴です。
永住権取得の流れとしては、まず申請後に承認されると「条件付き永住権(2年間有効)」が与えられます。その後、投資が継続され雇用創出が確認されれば、条件が解除され「無期限の永住権」となります。そして永住権を5年以上保持すれば、市民権申請の資格も得られるのです。つまりEB-5は、アメリカ国籍取得の道にもつながる長期的な制度といえるでしょう。
リージョナルセンター制度と普及
EB-5が広く普及するきっかけとなったのは、1992年に導入されたリージョナルセンター制度です。実際には1993年にパイロットプログラムとして本格運用が始まったとも記録されています。この仕組みでは、政府認可を受けた団体(リージョナルセンター)が投資家から資金を集め、大規模な不動産開発や地域再生プロジェクトを実施します。投資家は直接事業を運営せずとも、資金提供だけで条件を満たせるようになりました。
大きな特徴は「間接雇用」も雇用創出としてカウントできることです。たとえば不動産開発では建設業者や関連するサービス業も雇用として認められるため、投資案件の条件を満たしやすくなります。これにより制度は大きく広まり、2000年代には中国人投資家を中心に利用が爆発的に増加しました。背景には、子どもをアメリカで教育させたいという強い需要がありました。その結果、申請件数が集中し、ビザ発給まで数年待ちとなる「ビザ待機行列」が発生しました。
ただし人気拡大の裏で問題も生じました。リージョナルセンター経由の投資案件の中には、不正や開発失敗によって資金が消失するケースが発生しました。代表的なものが2016年に発覚した「Jay Peak事件」で、投資資金が不正に流用され、多くの投資家が被害を受けました。こうした事件は制度全体の信頼性を揺るがし、監視体制強化の必要性を浮き彫りにしました。
制度改正と混乱の時代
2010年代後半になると、EB-5は依然として人気を集めつつも、制度そのものが大きな転換点を迎えました。2019年11月21日、最低投資額が引き上げられ、特定雇用地域(TEA)では50万ドルから90万ドル、一般地域では100万ドルから180万ドルとなりました。これは30年ぶりの大幅改正であり、投資家にとって負担が大きくなりました。そのため改正直前には駆け込み申請が殺到しましたが、改正後は新規申請数が急減しました。
ところが2021年6月、連邦裁判所により2019年の規則は手続き上の不備があるとして無効とされ、投資額は従来の50万ドル/100万ドルに戻りました。さらに同年、議会でリージョナルセンター制度の延長が合意されず、制度そのものが一時停止する事態となりました。この結果、進行中の案件が中断され、投資家が宙に浮くという深刻な混乱が起こりました。こうした経緯から、EB-5は「永住権を得られる有力な制度」であると同時に、「制度改正に大きく左右される不安定さ」を持つことが改めて認識されました。
2022年改革と現在の姿
2022年3月、バイデン大統領が署名した「EB-5 Reform and Integrity Act」によって制度は再構築されました。この法律でリージョナルセンター制度は2027年まで延長され、監視体制が強化されました。具体的には、センターの登録義務や財務報告の徹底など、透明性向上のための規制が導入されています。これにより、過去に問題となった不正リスクの軽減が図られています。
投資額は改めて80万ドル(特定地域)と105万ドル(一般地域)に設定されました。また、インフラ投資や雇用が必要とされる特定地域への投資に対しては「優先審査枠」が設けられ、審査期間が短縮される仕組みも導入されました。長期のビザ待機に苦しんだ投資家にとって、こうした改革は大きな魅力となっています。
現在のEB-5は、創設から30年以上を経てなお世界の富裕層に選ばれ続ける制度です。特に教育や居住の自由を求める家庭にとって、アメリカ永住権を資金によって確実に得られる手段として依然高い価値を持っています。一方で、投資案件のリスクや制度改正の影響を受けやすい性質は変わっていません。したがって、EB-5を利用する際には信頼できる案件の選定と、専門家による最新情報の確認が欠かせません。
EB-5は誰にでも簡単に利用できる制度ではありませんが、十分な資産を持ち、リスクを取ってでもアメリカ永住権を得たい人々にとっては、今もなお魅力的な選択肢といえるでしょう。
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