日本人のパスポート保有率が過去最低水準に
2024年末時点で、日本人の有効なパスポート保有率はわずか17%台にとどまっています。外務省の統計によりますと、有効パスポートの累計冊数は約2077万冊(公用旅券を除く)で、主要先進国の50〜80%という水準とは大きな差があります。ピークだった2005年の27.7%からは約10ポイント低下しており、この20年で着実に減少してきました。旅行業界団体の分析では、この背景には経済的要因が色濃く影響しており、さらにコロナ禍による渡航習慣の喪失も加わっているとしています。かつては年末年始やゴールデンウィークに海外旅行を計画する方が多く見られましたが、近年はその光景が減り、空港の国際線ターミナルも以前ほど混雑しなくなっています。海外渡航者数も2019年比で7割を下回り、訪日外国人観光客の増加とは対照的な傾向を示しています。
経済的負担の増大と収入の伸び悩み
パスポート保有率の低下には、日本人の実質購買力の低下が大きく関わっています。日本の平均賃金はOECD諸国の中でも長期間ほぼ横ばいで推移しており、賃金の上昇幅は小さいままです。一方で円安が進行し、海外での物価は相対的に大幅に上がっています。例えば1ドル=100円の時代には1万円で済んだ100ドルの宿泊費も、1ドル=150円では1万5000円が必要になります。現地レストランの食事も、かつては1人2000円程度だったものが、為替の影響で3000円を超えることも珍しくありません。航空券も燃料サーチャージや需要の回復により価格が高止まりしており、ハワイやヨーロッパへの往復料金はかつての1.5〜2倍になっています。
さらに国内でも物価高が進み、電気代や食料品価格が家計を圧迫しています。こうした状況では、旅行に充てられる予算は真っ先に削られる傾向にあり、「海外旅行はぜいたく品」という意識が強まっています。実際、観光庁の調査でも「海外旅行に行かない理由」として最も多く挙げられたのは「費用が高いから」で、全体の過半数を占めています。
コロナ禍で失われた渡航習慣と心理的な壁
もう一つの大きな要因は、コロナ禍によって海外渡航の習慣が途切れたことです。2020年から2022年にかけて、多くの国が入国制限や隔離措置を導入し、海外旅行は事実上不可能になりました。この間にパスポートが失効しても更新しなかった方は多く、そのまま海外に行かない生活に慣れてしまったケースも少なくありません。
加えて、海外の治安や感染症リスクに対する不安は依然として根強く、特に高齢層では渡航を控える傾向が強まっています。治安に敏感な旅行先ランキングでも、日本人は他国より慎重な傾向が見られます。さらに、国内には観光資源が豊富で、温泉地やテーマパーク、地方の美食など、国内旅行で満足できる要素が揃っています。SNSやYouTubeで海外の景色や文化を手軽に見られることも、「行かなくても味わえる」という感覚を後押ししています。こうした心理的な壁が、パスポート取得や更新の動機をさらに弱めています。
若年層の価値観変化と将来への影響
若年層においても、パスポート保有率低下の傾向は顕著です。非正規雇用の増加や長時間労働の常態化により、長期休暇を取って海外に出かける余裕がない方が多くなっています。また、旅行にお金をかけるよりも、趣味や自己投資、デジタルコンテンツへの課金を優先する傾向が強まっています。例えば高額な海外旅行よりも、ゲームや推し活、最新ガジェットの購入に資金を回す若者も少なくありません。
このままでは、国際交流の経験を持つ日本人の割合がさらに減少し、ビジネスや学術、文化交流の場での競争力低下につながる可能性があります。政府や旅行業界では、若者向けのパスポート取得促進キャンペーンや、LCC(格安航空会社)を活用した格安パッケージツアーの開発など、海外渡航のハードルを下げる取り組みが求められています。実際に一部自治体では、若年層の海外研修や短期留学に補助金を出す制度を設け、渡航経験を積ませる動きも出始めています。
将来の国際競争力を考えれば、海外渡航を「特別な行事」ではなく、より身近な選択肢として取り戻すことが、日本社会全体の課題といえるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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